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樋口毅宏『さらば雑司ヶ谷』

樋口毅宏

 2009 『さらば雑司ヶ谷新潮文庫

 パラレルワールド(?)の雑司ヶ谷を舞台にした、青春バイオレンス・ファンタジー小説。2016年に引退宣言をした小説家、樋口毅宏のデビュー作にして、いまだにカルト的な根強い人気を誇る一作でもあります。私自身はけっこう前に入手していたのですが、このたびようやく目を通すことができました。

 

 本作の破天荒なストーリーを要約的に紹介することが意味のある作業かどうかは疑問であるものの、いきなり感想を言っても真意が伝わらないかと思いますので、ともあれ簡単にあらすじを:


 主人公は雑司ヶ谷の出身で、ある大宗教団体の跡取り息子にあたる太郎という名の若者。彼は一族を取り仕切る教祖の祖母に反発し、雑司ヶ谷を根城にする不良グループの一員としてやさぐれた生活を送っていた。
 ある日メンバーの一人で問題行動の多い芳一なる男が地元の幼女を中国に売りさばくという事件が起き、主人公はグループのリーダーであり幼馴染でもある京介の意向で中国へと捜索に赴くことになる。
 ところが太郎は中国で北京マフィアの大親分に捕まり、身も心も(ホモセクシュアルな意味で)従属させられてしまう。他方で捜索していた幼女は、けっきょく現地の富豪になぶり殺されていた。
 成果なく日本に帰った太郎は、グループが一連の事件の元凶であった芳一に乗っ取られ、京介もまた殺されてしまったことを知る。同時に祖母からは宗教団体の権威に泥を塗る謎の集中豪雨事件について解決することを依頼される。
 豪雨の謎を追いつつ、芳一たちと追いつ追われつの抗争を繰り広げる太郎。そこに北京マフィアの一団も乗り込んできて……

 

 という感じで、ストーリーだけ聞くと何が何やらのお話ではあります。そこに暴力やエロや友情やオカルトやギャグがぶち込まれ、読者はめくるめく雑司ヶ谷の世界に拉し去られるという仕掛けになっているわけです。作中にはかなり無理のある設定(悪と混沌の北京イメージとか、そもそも宗教と暴力渦巻く雑司ヶ谷とか)も多いにもかかわらず、勢いで読ませ切ってしまう力量は驚嘆に値します。極めて露悪的なので好みはだいぶ分かれるかと思いますが、近年まれにみるパワフルな小説作品でした。
 そしてこの作品の神髄は、著者自ら述べている通り、タランティーノを思わせる引用と暴力(もしくは引用の暴力)に満ち溢れたその文体にあります。個人的には、現存する町に上書きされた架空の世界に現代サブカルのさまざまなモチーフがちりばめられた、裏村上春樹とでも表現すべき一作かと思います。
 それでいろいろ読者に元ネタを想像させておきながら、巻末には自らパロディ元の作品や作家を一覧にしていて、作者の露悪趣味をうかがわせる一端なのですが、これがまた面白い。この文章の末尾にそのページを引用して貼り付けておきますので、関心があれば眺めてみてください。

 

 最後に蛇足。本書の下世話かつ陰謀論的かつ超人主義的なところ、私はどこか『実話ナックルズ』っぽいなと思いながら読んでいたのですが、調べたら著者は『BUBKA』の編集者をやっていたらしいです。なるほどねえ。
 

 

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[p242より引用] 

 

 

さらば雑司ヶ谷 (新潮文庫)

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BUBKA (ブブカ) 2018年11月号

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実話ナックルズ 2018年 09 月号

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