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中島たい子『漢方小説』

中島たい子

 2008 『漢方小説』集英社文庫

漢方小説 (集英社文庫 な 45-1)

漢方小説 (集英社文庫 な 45-1)

 

 

 アラサー男女に訪れる、まだいけるじゃんという希望とある種の諦念、そして身体的な不調。この時期を通り過ぎた人ならおそらくみな実感したであろう人生の転換期における戸惑いを、ある一人の女性の視点から描いた作品です。

 

 著者の中島氏は多摩美出身の脚本家。本書は2004年のすばる文学賞に輝いた、彼女の文壇デビュー作になります。

 

 主人公は著者の分身と思しき31歳の脚本家。仕事は鳴かず飛ばずといったところで、似たような境遇の仲間たちと(おそらく中央線沿いの)居酒屋に集まったりする、よくいるタイプの東京住みフリーランサーです。

 

 昔の恋人が結婚するというニュースを聞いて以来体調不良となった彼女は、ある晩に痙攣を起こして救急車で運ばれてしまいます。ところが、いくつもの病院を回っても原因ははっきりせず、ふと思い立って漢方医のところへ向かうことになります。彼女はそこで出会った若く飄々とした漢方医に一目ぼれし、中医学の勉強にはまってゆく。そうして身体についても人生についても対症療法的な思考ではなく、全体論的な考え方を身に着けることでなんとなく元気と希望を取り戻してゆくわけです。

 

 30代というターニングポイント(があるとして)の前後を西洋医療と東洋医療になぞらえつつ、両者は根本的に違うのではなく実は相互に浸透しあっているのだとさりげなく指摘する視点は優しく、学問的にも正確なものです。

  

 また失礼な言い方かもしれませんが、本書のあまりしっくり来ているとは言い難い比喩や、さほど気が利いていないユーモアは、どこか無理に背伸びをしているような初々しさを感じてむしろ好感が持てます。一例だけ挙げるなら:

 

物を書いている人間にとってストレスはネタそのものだ。なんの障害もないストーリーを書いて誰が面白いと思う? ストレスの恩恵で暮らしている自分が、今更ストレスが原因で体調を壊すなんて、キッコーマンが大豆アレルギーになるくらい考えられない(P19)。

 

 お化粧を頑張りすぎた女子高生を見たときのような、キメキメの格好で講義室に現れた男子大学生を眺めるときのような、苦笑はするものの不快ではないあの感じが伝わりますでしょうか。舌足らずながらも書きたいことは書ききったという清々しさを感じる佳品でした。